第8回
辰馬本家酒造株式会社の第15代当主・辰馬章夫さん。酒づくり、販売等、酒に関わる人たちも酒文化の担い手です。
丹波杜氏
杜氏は、酒造りの現場最高責任者です。現在の杜氏や蔵人の制度の直接的な起源は江戸時代と言われています。
夏場の耕作だけでは貧しかった地方の農民が、農閑期に副収入を得るべく、冬場の出稼ぎに行ったのが始まりです。配下に村の若者などを蔵人として従え、集団で蔵元に赴くため、杜氏集団の長は、技術だけでなく人事の統括者でもあったのです。所謂「アウトソーシング」の仕組みが何百年の文化として現代に息づいています。
兵庫には、丹波杜氏、南但杜氏、但馬杜氏、城崎杜氏などの杜氏集団がありますが、灘の酒造りを支えているのは主に丹波杜氏で、250年間にわたって灘の酒を生み出しています。
仕込みから醸造までのデリケートな品質を管理する杜氏の技術は、匠の技と言ってよいでしょう。辰馬本家酒造が誇る「黒松白鹿」は、1920年(大正9年)に丹波杜氏・梅田多三郎が新醸造に成功し、誕生させた名酒です。
阪神淡路大震災ですべての木造蔵が倒壊し、現在白鹿では、蔵人による酒づくりは行われておりませんが最新酒造工場に伝統の手づくりシステムを内蔵し、昔ながらの技法を後世に伝え、酒造技術者を育てる場ともなっています。
酒屋はコミュニティ広場
「酒は食文化とともに、人と人との繋がりを楽しく深めていくコミュニケーション・グッズだと思っているのですが、蔵元とお客様を繋ぐ、街の酒屋さんのような店主さんの顔の見えるお店が少なくなってきているのが、とても残念です」と辰馬さん。
「量販店での販売には本部の指定銘柄がありますし、コスト優先で価格破壊が起きている現状では、酒の持つストーリーをお客様にお届けすることが難しくなり、また一部で価格不信も招いています。
さらに、平成元年に級別が廃止されたことで、『特撰』や『上撰』と言った種別の基準は酒造各社で違っていますし、消費者にとってわかりにくい表示になっています。
また、純米酒こそが本物だというイメージを持たれている方が多くいらっしゃると思いますが、醸造アルコールの添加も味わいを調えるための古くからの技法で、最高級吟醸酒にもこの手法が用いられているタイプがあるのです。
このような情報は、通の人にだけ通じるのでは無意味で、一般消費者にきちんと伝わるメッセージの出し方をすることは、酒造会社の責務だと思っています」
つづく
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