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   編集長・正木京子のこの人に会いたい!
 西宮の老舗画材屋さんですね

 昭和43年に母親がたった3坪の店舗からスタートしたんです。
 私は、学校を卒業後、鋼材商社の久門製作所に3年間勤務していました。下関から姫路まで出張出張の営業活動でしたね。やがて、画材店が近所にできるというので、店を広げることになりまして、私も手伝うようになったんです。
 私自身は絵は描きませんが、そのほうが、画家が気楽に呼んでくれるんです。長時間お話を聞かせてくださって、「絵の具はここのメーカーがよい」などと画材について教えてもらいましたので、それで勉強ができました。
 画材一式を車に積んで販売に行くこともありました。絵画教室の先生が「この色いい色だから使いなさい」と生徒さんに薦めてくれるので、高い絵の具がどんどん売れていくんです。(笑)

 膨大な在庫を抱えられるのでは?

 たくさんの種類を表に出すことが求められるので、自然に在庫も増えます。この辺りは昔はよく津門川が溢れて水に浸かる一帯でしたが、段ボール箱に入れてある商品は、段ボールが水を吸って損傷が少ないんです。震災時には、ワイアで吊っていた額は壊れ、紐で吊っていたものは無事だったりと、意外なところで自然の力に助けられました。さすがに築80年の建物は震災の被害で建物にひずみができて、平成17年に現在のビルに建て替えました。

 絵画教室、ギャラリー、芸大・美大受験クラスと、ビルを上手に活用しておられますが?

 建替え前にはそれらの教室が周辺に散らばっていたのですが、集約することができました。最近は、芸大受験のためにこうした教室で学ぼうとする人が減りましたが、これまでに五百人を超える卒業生がいます。かつて生徒さんだった方が教室の先生になっているクラスもあります。
 1階の通りに面したスペースは町の皆さんに楽しんでいただけるように、ストリートギャラリーにしました。

 ところで、以前に読んだ小野さんの「失敗は仕事をした証拠」という言葉が心に残っています

 最近の若い人は失敗を怖がって、無難な方へ行こうとしがちですね。私は、「失敗を恐れるな」と言いたい。仕事の数が増えれば、失敗の数も増えます。大事なのは失敗にどう対処するか、その経験をどう活かしたかですよ。また、人を育てる側としては、頭ごなしに「あかんぞ! なにしてんねん!」と怒っていたんではダメですね。次のステップに進めません。「こうしたらどうかな?」と提案することで、人は育っていくものです。
 私の失敗談ですか? 絵を裏打ちするという仕事があるんですが、作者の絵を裏表逆さに裏打ちしたことがあります。新たに「ではこれを」ともう一枚預かりまして、さすがに二度失敗できないので、今度は表具屋に頼んだんです。そうしたら、表具屋も裏表逆さにするという同じ間違いをやってしまいまして。もっと大きな作品を掛け軸に仕上げて勘弁していただきましたが、忘れられない思い出です。

豪快に笑いながら、苦労話をさらりと話す小野さん。額を作って残る材料で小さな額を作り、商品化する工夫。今も1日2時間かけて在庫管理や販売管理を自分で行っていること。いい勉強をさせていただきました。

●西宮市西宮市甲風園1丁目7ー8
 TEL.0798ー67ー9174
 甲風画苑

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