安らかな旅立ち


 日本に住む外国人夫妻が飼っている18歳の猫が夜中急に呼吸困難をおこした。幸いというべきか、すぐに死んでしまいそうな状況ではなかった。
 しかし、すでにかなりの高齢ということを飼い主夫妻は理解していたから、苦しむくらいなら安楽死をといきなり言われた。安楽死の考え方は日本と欧米ではかなり隔たりがある。頭ではわかっているが、私としては安楽死を積極的に進めるような状態ではない。取り乱す飼い主と何回も話し合い、飼い主に寄り添うよう努力した。猫は缶詰も食べ、トイレにも歩いていき、私が往診に行くと嫌がって背を向けた。こんなにも意識がはっきりとしている猫に安楽死は勧められなかった。
 結局3日目に静かに猫は自然に旅立った。飼い主の意志を尊重し、動物霊園にお骨ではなく灰になるまで火葬してもらい、帰国時に夫婦はその灰を共に連れて帰る。東西の言語、文化の壁を乗り越え、みんなが一つの小さな命を見守ったのだ。



ク−パー動物病院  http://cooper-net.jp/

バックナンバー