編集長・正木京子のこの人に会いたい!
 柳生新陰流の遣い手でもある多田容子さん。女性には少ない若手の剣豪小説家として注目されています。時代小説を書き始めたのは、大学生の時でした。

 時代小説家へのアプローチは?
 テレビっ子でチャンバラが好きで、受験生時代は時代劇ばかり見ていたんですね。もう見尽くしたと思ったのが十代後半の頃でした。それなら自分で話を作ってみようと…。新しい時代劇への挑戦でした。
 京都大学在学中に作品を読んだ友人たちの感想は「なかなか面白い!」。講談社の時代小説大賞に応募する際には、みんなが各々の視点からアドバイスをくれました。

 卒業後は一般企業に就職をされたんですね
 当時は作家としてやっていこうとは思っていなかったんです。自分で自分の身を立てよと親からは言われてきましたので、まず就職だと。しかし、企業の中にある様々な矛盾に疲れ切ったのと、小説を書かずにいられない欲求が膨らんで、8カ月で退職しました。

 柳生新陰流の修行はいつから?

 武術の稽古自体は、大学時代に居合道部に入部したことから始まります。高校時代に「柳生一族の陰謀」を見て以来、柳生十兵衛に惹かれていましたので、会社を辞めた後、ついにその剣術を習ってみようと。奈良の道場に10年通って兵法を学び、現在は小転中伝(こまろばしちゅうでん)を授っています。
 柳生十兵衛の父・柳生宗矩は、徳川将軍家の剣術指南役として仕え、その後、大名になるほど辣腕の政治家として活躍した人でした。
 柳生の兵法は「切らず、とらず、勝たず、負けざる」という『平和の剣』なんです。自分から斬り付けず、かかってくる相手の技を無効にし、人の命を奪うことなく相手を制することを旨とします。「目付(めつけ)」という言葉がありますが、これは相手を見る力のことです。相手がどんな動きに出てもそれに対応して制するためには、自らの身体技法を高めるとともに、この「目付」を磨く必要がある。新陰流ではそれらをあわせて稽古します。

 そのまま現代にも活かせますね
 いろんな分野に応用可能だと思います。「新陰流 サムライ仕事術」という本を書きました。例えば、議論は表裏の使い分けです。自分の主張を通すには、相手の出方を待ち、きれいごとを言うことなく相手を納得させなければなりません。
 柳生新陰流の教えに「懸待表裏(けんたいひょうり)」があります。懸かる心を秘めて待ったり、表から来ると見せて裏から出るなど変化し、敵の攻めに従って自在に変転することです。

 対談中にも武術の所作が自然に出る多田さん。身のこなしの美しさに見ほれてしまいます。愛読者やファンと共にお話の会を開いたり、雑誌のインタビュアーを務めたりと多忙です。五月からは芦屋で「侍サロン」をスタートさせます。

Profile
香川県高松市生まれ。尼崎市に育つ。93年 京都大学経済学部卒業。
99年 柳生十兵衛を扱った剣豪小説 『双眼』(講談社)でデビュー。
2004年 兵庫県芸術奨励賞受賞
著書/『柳影』『やみとり屋』『女剣士・一子相伝の影』『月下妙剣』『柳生双剣士』(以上、講談社)、『甘水岩 修羅の忍び・伊真』(PHP研究所)、『柳生平定記』(集英社)等を発表。最新刊は、『おばちゃんくノ一小笑組』(PHP文芸文庫)『自分を生かす古武術の心得』(集英社新書)、『新陰流 サムライ仕事術』(マガジンハウス)など。
http://www.yukotada.com


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