編集長・正木京子のこの人に会いたい!
 来る9月15日午後2時から、芸術文化センター 阪急 中ホールで「第一回 にしのみや能」が開催されます。『翁』を演じるのは、西宮在住の上田拓司さん。阪急・夙川駅近くにある能舞台「瓦照苑」をお稽古の合間に訪ねました。夙川沿いの松と桜の緑を文字通り借景にした、落ち着いた佇まいです。

 芸文センターでの、にしのみや能の開催は、深い縁があるとか?
 半世紀以上も前の1950(昭和25)年に、私の祖父・上田隆一が中心となり、能楽界の人たちの手で、劇場を造りました。これが少し年配の方なら記憶しておられる「日芸会館」で、今の芸文センターの場所にあったのです。「日芸会館」は、父が社長として運営に当りましたが、時代に先んじ過ぎたこともあって、5年ほどしか継続できず、その後、映画館になってしまい、その映画館も姿を消しました。この秋、私が「にしのみや能」として舞台に立てることは、凱旋のような思いでおります。

 生まれた時から能楽師としての道を定められていたのですね
 上田の家は、神戸市の会下山に能舞台を持っていましたが、戦災で消失しました。日芸会館を失った後、1962(昭和37 )年に長田区大塚町に上田能楽堂を建設しています。私が3歳の時で、この年に初舞台を踏んでいます。  高校生くらいまでは、学校のことを主体に過ごしていたのですが、大学生になると、ちょうど芸に浸っていく時期になりました。シテ方の装束はシテ方しか触れませんし、能面も舞台に出ない人は触らない厳しさがありますので、細かいことを叩き込まれました。技術や知識を増やすだけでなく、深く考え、能を知ることを修業しました。  若いうちは、「覚えて間違えずに終わったらそれでよし」だったのですが、声がいいとか、声が通るということは基本ですから、そのうち「何を伝えるか」と向き合うことになります。私は家族ができて、能によって気を養い、空間を充実させること、また心の成長・充実をなせることを実感できました。  能をご覧になる方には 、そのような豊かさをお伝えできればと思っています。

 にしのみや能は、能を初めて観る人でも楽しめますか?
 サブタイトルを「今、日本人が愛でた息づき〜躍動のリズムに祈りをこめて〜」としていますが、笛、小鼓、大鼓のリズムに乗せて、音を楽しむことから入っていただきます。命の価値が軽々しい時代にあって、平和な時代を支えられて生きることに気づいていただき、元気になって帰ってもらえるように力いっぱい演じます。  能と聞いて何やら拡張高い権威を感じがちですが、元々は民俗芸能であったもの。瓦照苑では、子ども向けの体験教室も行っており、気軽に親しめる文化です。「にしのみや能」にぜひお出かけください。

 能と聞いて何やら拡張高い権威を感じがちですが、元々は民俗芸能であったもの。瓦照苑では、子ども向けの体験教室も行っており、気軽に親しめる文化です。「にしのみや能」にぜひお出かけください。


■Profile 能楽シテ方 観世流 準職分
1959年 シテ方観世流職分上田照也の次男として神戸に生まれる。
1961年 仕舞「養老」にて初舞台
1999年 夙川能舞台「瓦照苑」設立
2001年 重要無形文化財綜合指定
2006年 神戸ブルーメール賞を上田兄弟会で受賞
2008年 文化庁芸術祭 新人賞
関西学院大文学部 日本文学科卒業


■お問合せ  能楽協会神戸支部  TEL.0798(70)9120

■瓦照苑ホームページ


バックナンバー