歌でつなぐ

第10回

シューベルトの曲を掘り起こす

600曲ともなると、ほとんど世間に知られていない歌も多いので、ピアノの前に座って譜読から始めました。これは、誰も知らない曲を掘り起こしていくような作業で、とても楽しいのです。しかし、14歳のシューベルトが作った曲は、子供っぽい可愛らしい曲だろうなぁ、などと侮っていると、作品を見てビックリ。14歳から15歳時の作品は、「屍の幻想」「父親殺し」「墓堀人の歌」と、恐ろしげなタイトルの歌が続くのです。しかも長い。少年の抑鬱とした気持ちが反映されているのでしょうか?

こうして、地道にシューベルトの曲を掘り起こして、'93年から'99年まで、年4回のリサイタルを足掛け7年続け、延べ26回で歌いあげました。

明るく楽しい18歳のシューベルト

楽しかったのは、シューベルトが18歳の頃に作曲した歌のリサイタルでした。この頃のシューベルトは、充実した楽しい日々を過ごしていたようで、年間160曲も作曲しており、明るい曲が多いのが特徴です。あの有名な「野ばら」は、シューベルトが18歳の夏、8月19日に作られており、この日だけで5曲も、一気に書き上げているのです。

シューベルトを伝えたい!

リサイタルを続けていくうちに、シューベルトとの一体感というか、彼の曲を世の中に伝えたいという使命感のようなものが芽生えてきました。

毎回、知り合いにチケットを150枚くらい郵送するのですが、一人ひとりの顔を思い浮かべながら宛名書きをする作業が、実は練習より大変だったのです……。どこへ行くにも、チケットと封筒を入れたカバンを持ち歩き、少しでも空き時間があれば、コツコツと宛名書きを7年間続けました。

でも、聴きにきてくださる皆様に、シューベルトの曲を全部、僕が掘り起こして紹介しているのだという誇りと、その全てを聴いてもらいたいという気持ちで、常に心が満たされていました。

丹波の森とシューベルト

シューベルト歌曲連続演奏会を始めた'93年に、僕の生まれ故郷である丹波の森と、シューベルトの生まれた町であるウィーンの森が姉妹提携をしたと知り、これをきっかけに'95年より丹波で音楽祭を始めることになりました。この頃から、音楽を通じて何かを伝えることに興味を持ち始めていたのです。

次回に続く