人、街、酒

第3回

ギター一本抱えて街から街へ。音楽で人と人をつなぐ桑名晴子さん。出会う人、自然、モノについて語ります。


 前回ご紹介した「ひもろぎの里」でのサマーキャンプは、戦後間もなくから60年にわたって開催されてきた歴史があります。子供たちの健全な精神を自然のなかで培うことを目的に、日本青伸会の方がお世話をしておられますが、晴子さんが関わるようになったのは、2000年から。
 「伊勢神宮や東大寺、清水寺などで歌を奉納したご縁で、文部科学省から、キャンプに参加している子供たちに歌を教えてほしい、とご依頼をいただきました。子供たちのためならと喜んで行ってみると、日本青伸会の方たちは高齢化が進んで十分に活動できる人が少ないため、食事の支度や子供の世話もお手伝いすることになってしまったんです(笑)」

バトンを渡されている時代

 「長年お世話をしてこられた方たちには、戦争体験のある年代の方もおられます。女性はスカートを履くものだ、ズボンはいかん、と叱られたりしました。後からやってきて、子供たちとワイワイやっている得体の知れない女に見えたんでしょうね。なかなか認めていただけなかったです。2004年に「ひもろぎの里の歌」を作って、「One」というアルバムに入れたのですが、この曲を唄ったところ、おじいさんたちに喜ばれて、親しまれるようになりました。
 そのころからですね。いろいろな話を聞かせくださるようになりました。ひもろぎの里が戦争中は疎開地だったこと、戦争末期には14歳の少年までが、ここから出征して行ったとこと…。
 おじいさんは子供たちに言うんです。「悲しいことや困ったことがあったら、いつでもひもろぎに戻っておいでよ」って。  最近は、世代交代して、キャンプの運営も若者が中心になってきましたが、気づくと私はかつておじいさんたちが仰ったことと同じことを子供たちに言っています。そして、今年のキャンプでは、私が最初に行った年に小学生だった子が成長して、ボランティアで参加してくれましたが、彼らもまた、私が言ってきたことと同じことを小さなな子たちに言ってるんです。
 自分が託されたバトンを次に送っている確かな手ごたえがあります」


つづく


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