人、街、酒

第9回

フォークデュオとして息の長い活動を続ける「紙ふうせん」のお二人。伝承歌を伝え遺す試みについてお聞きしました。

もうっこと円山川舟唄

悦治郎 1971年ごろ、「赤い鳥」の時代に、青森県の津軽三味線の高橋竹山さん宅を訪ねたり、青森の人たちと交流して、青森に伝承されている歌を探っているうちに、「もうっこ」という歌に出会いました。「もうっこ」には、「お化けや妖怪」説や、世界侵略した「蒙古」説などのいろいろな説がありますが、「怖いもの」という意味で伝えられています。子どもを寝かせる時に、「早く寝ないとお化けが来るよ」と歌うのです。
泰代  もうっこ来ら〜え〜♪ 「来らえ」は、来るよという意味です。
悦治郎 寺山修司の戯曲でもよく使われましたが、僕たちもレパートリーに取り入れて、さまざまな試みをやりました。ジャズの渡辺貞夫さんたちとステージで演奏したり、青森では、竹山さんと一緒に演奏したりしました。
 「円山川舟唄」に出会ったのは、兵庫県下の伝承歌やわらべ歌をくまなく歩いて集めている長谷坂栄治さんを但馬地方に訪ねた時でした。
泰代 詞がいいんです。2コーラス目に、「雨がふりゃよいな/ざんざか雨が/いとしあの人の肩休め」という詞があるんですが、優しい言葉でしょう。雨が降れば、仕事が休みになって、二人で過ごす時間が取れるという、夫(恋人)を思う女性の気持ちも歌われていて、そんな詞の奥行きを感じながら歌うようにしています。
悦治郎 この曲は、「紙ふうせん」でレコーディングしました。シンセサイザーを入れた新しい構成で、その音を持って円山川に行って音を出してみると、その風景にぴったり合うんですね。
 クラシックも含め、ジャズ、ブルース、フォーク、ロックは、外来のものです。僕たちはそれらの音楽で育ってきましたから、それと一体化させたいのです。
「いいものと出会った→そのまま再現する」ではなく、自分たちの音楽と融合させて伝えたいのです。
 しかし、僕たちのような活動をしている人は少ないですね。その兆しがあるのは「島唄」かな。琉球のものを若い人たちが興味を持って取り上げています。沖縄の人たちが積極的に出てくるようになったので伝わりやすくなりました。
 その時代ごとの音楽がありますから、何が残るのか、どう遺すのか、まだ答えは出ないですね。

つづく


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