人、街、酒

第10回

フォークデュオとして息の長い活動を続ける「紙ふうせん」のお二人。その時代に生きる音楽について語ります。

時代と音楽

悦治郎 「五木の子守唄」は、熊本県の五木村に伝わる民謡ですが、一般に広く知られているメロディーは、土地に伝わる曲とは全く違うんですね。第二次世界大戦後に、文化復興の目的で、作為的に作られた曲なんです。教育的目的から、一つかみの人たちの能力に頼って曲づくりをしたと言っていいでしょう。
泰代  でも、その曲は大衆の心に響いたんですね。レコーディングされて大ヒットしましたからね。戦後10年位の出生世代には、この子守唄で育った人も多いでしょうね。
悦治郎 そう、その時代にはよかったんです。でも今、若い人たちは聞かないでしょ。聞いたとしても、ぐっと心に入ってくるかどうかわかりません。僕たちの「竹田の子守唄」にしても、今の十代の子たちが共感できるかどうか? むしろ原曲の方が、ラップ音楽に親しんだ子たちには、入っていけるかもしれないです。
  −ここで悦治郎さん、原曲を口ずさみます。軽快なリズムです。
泰代 仮に作為的に作るとすれば、時代を読んでいく作業も必要になってきますね。

伝承歌の未来

悦治郎 現在、伝承歌の収集のために地方を回ることはしていません。行っても、伝えられる人がいなくて、空振りになってしまうんですよ。
泰代 柳川めぐりをしても、船頭さんが舟唄を歌わないですね。北原白秋の歌は歌ってくれるけれど(笑)。伝承歌として伝わっていても、文字で残るのみで、音として残っていないことが多いです。仮に譜面のようなものがあっても、生歌にあるニュアンスは譜面ではわかりません。やはり、生歌を聞くと触発されますね。
悦治郎 アメリカに行くと、歌を保存して伝えているセンターが随所にあるんです。日本では、農耕機具や生活道具などを展示している資料館はありますが、歌を音として保存しているところはまずない。これは、歴史の長さによるものですね。アメリカの開拓後は、たかだか百年、二百年の短い歴史ですから、黒人のブルースや白人のフォークソングが、音として残されています。日本の歴史は長すぎるので、古くから伝わる歌は活字だけしか残っていないんです。僕たちは、これまで集めた曲をリサイタル等で、ていねいに伝えることをし続けていきます。

つづく


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