難 産

数年前にある小型犬が病気で亡くなった後、飼い主さんが死後の解剖を申し出てくれた。珍しい病気だったので、私たちの勉強のためにとの飼い主さんの配慮だった。この話を知った別の飼い主さんが、高齢で慢性の病気で苦しむ自分の小型犬が亡くなった時に、良かったら解剖を…と生前に申し出、約束どおり、その亡骸を連れてきた。

私は正直、心底驚いた。この犬は大変家族の皆さんに可愛がられ、飼い主は母と祖母、成人している娘たちだったが、血を見ることも注射も怖いと誰もこの子の治療時に付き添うことができなかったからだ。私たちは、ずっと検査で追い続けていたこの子の病気の部分を、実際に眼で見て確かめることができ、お腹に溜まっていた水も取り除いてきれいにした。小さな命は穏やかな表情で飼い主さんの腕の中で眠っているようにさえ見えた。この子の体は天に昇っていくだろうが、いつまでも私たちの中に生き続けていくだろう。