夕日が山に入り、町がすっかり暗くなった頃、今津南市民館の三階は、稽古着に身を包んだ人たちの、威勢のよいかけ声が飛び交います。訪れた日は、イタリアから稽古に来た人も。
 日本の伝統武術を守り、伝え続けている井上恭一さんに出会いました。


 本體楊心流とは?
 日本武道館の正会員です。1979年に、財団法人日本武道館が日本古武道協会を創設した時から加盟していまして、日本武道館で行われる「日本古武道演武大会」に、1年おきに出場しています。
 日本古武道協会に加盟している武術には、柔術、剣術、居合術・抜刀術、杖術・槍術、薙刀術、空手・琉球古武術、砲術などがありまして、時代劇などでおなじみの「小野派一刀流」や、「柳生新陰流」もありますよ。
 本體楊心流は、奥州仙台藩が発祥の地で、初代・高木折右衛門重俊は、白石城主家臣の次男でした。第二代の高木馬之輔重貞が、播州姫路城に仕えたことから、本體楊心流が播州に広がり、伝えられてきたのです。1982年から23年間、父・井上剛宗俊が第十八代を務め、4年前の1月16日の宗家傳承式で私が受け継ぎました。


 古武道と現代武道の違いは?
  武術は、戦国時代から江戸初期までの、武士の戦闘技術でした。各地で剣術や柔術、槍術、弓術、砲術などが流派として体系化され受け継がれて来ましたが、他方、小野派や新陰流などが、武具や防具を開発・改良し、競技や試合を重視するようにもなって来ました。これが、柔道、剣道、弓道などの武道です。近代以降に生まれた武道を現代武道、主に明治以前に成立した諸流派を古武道と呼んでいまして、ただ古いということではないのです。
生死を懸けて闘うための武術ですから、「試合」というものがありません。ルールがないから試合できないのです。武道では、武術を披露する「演武」を行います。各地の武道館でも、「演武会」が開かれていますので、チャンスがあったら、見てください。
 演武会と言えばこんなことがありました。姫路にある兵庫県立武道館での演武大会で、砲術を演じたところがあったのですが、砲術は火薬を使うので、どの演武会でもプログラムの最後に行います。
 スプリンクラーが作動しないよう、その時だけ係員が操作するのですが、手違いで作動してしまい、館内水浸しになって、閉会式ができなくなってしまいました。係員の人たちはてんてこまいでしたが、大笑いになりましてね。物事は真剣にやればやるほど、何か起きた時にはおもしろいんですよ。
 
稽古場の皆さんにも、時折笑いがこぼれているのは、真剣に取り組めばこそですね。



井上恭一宗教氏プロフィル

1949年
本體楊心流第十八代・井上剛宗俊の長男として生まれる。
幼時より講道館柔道の修行に打ち込む。父の薫陶を受け、講道館柔道、剣道・銃剣道等の現代武道にも親しむと共に、古武道の修行に励んだ。
2005年
宗家傳承式で、第十九代宗家を継承。
国内での指導の傍ら、海外普及にも力を注ぎ、年数回海外指導に赴く。


■本體楊心流総本部道場
西宮市今津出在家町10ー5
今津南市民館3F 今津武道会道場