地球人

第2回

四川大地震で、左脚を失った女子高生・段志秀さんを日本に招き、義足をプレゼントした李広宏さん。今回は、ある出来事を通して、李さんが感じたことを話していただきました。

2つの出来事 1

段さんが帰国し、ホッとしたものの、李さんは相変わらず忙しい毎日を送っています。コンサートの時に2つの出来事がありました。

ひとつは、ある会でのコンサート後のことです。ビュッフェパーティーがあり、いろいろな方々が私の歌を誉めてくださり、段さんの件で話が弾み、楽しい気分でパーティーが終わるはずでした。
ほとんどの方々が会場を後にされたときに、一人の中年男性が私に近づいてきました。
"あんた、日本に来て何年? 日本語下手だね〜。もう少し顔が良ければ、韓流スターみたいに売り出せるのにね"と言ってきました。最初は私も我慢していましたが、"今までそんなこと言われたことがないですよ"と返すと"お世辞言う人はあかんよ。そういう人たちには気をつけて"と言われました。
一面識もないこの男性の無礼な言葉に、私の怒りはなかなか収まりませんでした。

現実として、私たちの日常には、感情をぶつけ合うことを避けたり、不本意なことを言われても腹が立っても、くやしくても黙って飲み込むことがあります。

すべての人がそうだとは思いたくありませんが、日本人はそういうときに黙って耐え、相手にしない風潮があると周りのスタッフが話してくれました。私は日本が大好きですが、そういう点は日本人のよくない習性だ感じています。



2つの出来事 2

もうひとつの出来事は、西宮神社会館でのコンサート前のリハーサルを終えた後のことです。

窓の外に目をやると、2人の青年が、写真を撮りあっていました。僕はスタッフに“彼らを今日のコンサートに誘っていいか”を確認し、彼らの元に行きました。“2人で撮ってあげましょうか”と話しかけ、彼らとおしゃべりを始めました。彼らは宣教師として、布教活動をしている青年でした。ひとりは高校卒業後、宣教師の勉強で日本に来た20歳のアメリカ人。もうひとりは大学卒業後、北海道から出てきた日本人でした。
最後に“僕は中国人の歌手で、今日の夕方、この会館でコンサートがあります。予定がなければ来ませんか?”と誘いました。いざ、コンサートが始まると、彼らはちゃんと座って聴いてくれていました。

宣教師2人を誘った場所は神社で、コンサートも神社会館で行われるものでした。李さんは、宣教師として異教に触れることも勉強になるよ、とも話したようです。

私は、2人の青年に人との出会いのすばらしさを味わってもらいたかったのです。特に20歳のアメリカ人は、異国での生活。自分が来日してきたときのこととダブリました。異国での生活は希望と同時に心細さもあるに違いありません。彼にとって様々なことを体験した日本での1年は、本国に帰ったとき大きな1年になることでしょう。私が日本で出会った、"いい日本を彼にも知ってほしいな"という思いもあります。
 

文化の違いを乗り越える

対極のような2つの出来事を通して、李さんが感じたことは・・・。

苛立たしい気持ちとすがすがしい気持ちを2つ経験しました。大陸では、いろんな人が日々行き交います。"すべての道はローマに通じる"という諺にあるとおり、中国から欧州まで陸続きです。その間には、いろんな文化や人種がありします。大陸では、常に様々な価値観を持った人と対応していかないと、生活していくことはできません。だからこそ、相手が不快になるような発言をあえてする、という不用意な行動はしてはいけないと思います。
日本は、海に囲まれた島国です。島というのは船が来たら事が始まる、つまり、船が着くまでは新しいものが入ってこないということです。そこで、人間に対する心の開き方が違うのではないでしょうか。

我々は、育った環境、文化を通して成長し、活動していきます。日本から海外に羽ばたく人もたくさんいます。
李さんの言葉を通して、自分の行動や発言に責任を持つこと。そして、ちょっとしたきっかけで手を差し伸べたことから、相手、周りの人々、そして自分も幸せになれることがあるのだと感じました。


次回の更新は6月28日(月)予定です。


中国・蘇州生まれ。

16歳から中国伝統劇滬劇の俳優として活躍。
中学生時代にラジオから流れた“夏の思い出”に感動し、日本行きを夢見て、26歳で来日。
歌手として日本と中国、そして世界の文化の架け橋になりたいと精力的に活動しています。
西宮在住。
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