第3回
6月30日にフランス・パリで行うコンサートツアーに出発する李広宏さん。李さんは、いつかパリでも暮らしてみたいと思うほど、お気に入りの街だそうです。
海のイメージ
李さんの生まれ育った中国・蘇州は内陸の街です。西宮は、北は山に南は海に面している街ですが、李さんの海に対する思いはどうなのでしょうか
淡路島出身の友人は“海を見るとホッとする”と言いました。彼は、子供の頃から海の近くに住んでいるからかなぁ、と思っていました。ところが、今まで出会ったたくさんの日本の人が同じ感情を持っていることに気がつきました。
僕は、海からイメージするのは、“怖さ”です。海は広くて果てしなく、底なしという感じがします。僕の故郷の蘇州は、運河が多く、船で行き来することもあります。でも運河は、船をこぐときに竹の竿が川底につくので、深さがわかります。海のように深くって、底がわからない恐怖感はありません(笑)。
確かに海には、底知れぬ恐怖というものがありますね
たとえば、船から海に投げ出されたときを考えてみてください。手も足も自由にできず、知恵で解決できることは限られています。
陸ならばどうでしょう。一人で心細く歩いていても、ともかく歩き続けることはできます。途中で熊や狼に出会ってしまっても、自分の知恵で相手を威嚇し、自分の身を守ることもできます。陸の上なら危険が迫っても、自分の知恵しだいで、生きていけると思うのです。
読者のみなさんは海派ですか、山派ですか。
人生の旅人
李さんは深い洞察力で、日本人と中国人の違いを客観的に見ていますね
大陸では常に人が行き交かい、人と人が話をし、行動するのが常です。時にはにぎやかなくらいにです。
でも、日本には違った文化がありました。“わび、さび”の文化です。京都の庭で、じ〜っと30分以上座って静かに鑑賞している人が多いですね。鳥のさえずり、木々をわたる風の音など周りの音を聞き、景色を感じ、時間の経過の中でいろいろなことを悟っているように思います。
中国人はどうでしょう。さ〜っ、と見てきれいだね、すごいね、でおしまいです。日本の童謡や唱歌がすばらしいのは、自然の中に時間の経過を感じ、それが詩やメロディーとなって、心に染みる音楽が生まれているんでしょうね。
李さんは文化の違いを拒絶することなく、受け入れて自分なりの文化を新たに作っていますね
僕は違う文化が触れ合うとインスピレーションが働きます。そうした出会いを僕は求めています。だから、僕の人生はずっと旅人なんです。
中国のことわざで、「条条道路 通羅馬」というのがあります。“すべての道はローマに続く”と同じr?意味です。中国からシルクロードを通り、ローマに通じている長い道があります。陸続きの大陸では、歩き続ければ必ず目的地に到達できます。人間の一生に置き換えれば、人生にはできないことはない、という信念につながっています。このような気持ちは、今までつらいことがあっても自分の選んだ道なのだから、と僕を支えてきたように思います。
次回の更新は7月26日(月)予定です。
中国・蘇州生まれ。 16歳から中国伝統劇滬劇の俳優として活躍。 中学生時代にラジオから流れた“夏の思い出”に感動し、日本行きを夢見て、26歳で来日。 歌手として日本と中国、そして世界の文化の架け橋になりたいと精力的に活動しています。 西宮在住。 →オフィシャルサイト |